『白夜行』
作者:東野圭吾 集英社文庫 お気に入り度:
★★★★☆

<あらすじ>
1973年、大阪の廃墟ビルで一人の質屋が殺された。容疑者は次々に浮かぶが、結局、事件は迷宮入りする。被害者の息子・桐原亮司と、「容疑者」の娘・西本雪穂---暗い目をした少年と、並外れて美しい少女は、その後、全く別々の道を歩んで行く。二人の周囲に見え隠れする、いくつもの恐るべき犯罪。だが、何も「証拠」はない。そして19年・・・。行き詰る精微な構成と、叙事詩的スケール。心を失った人間の悲劇を描く、傑作ミステリー長編!(文庫本 裏表紙より)
<感想など>
東野圭吾さんの超長編ははじめて読みました。全860ページほどのボリュームでしたが、大体2日ですらすらと読めました。
東野圭吾さんの最高傑作と言われている方も多いらしいのでかなり期待して読み始めましたが、率直な感想としては僕の中では面白かったが最高傑作ではないかな、という印象です。
これはもう、個人的な好みの問題になるかと思うのですが、物語の中で登場人物(犯人といえるかもしれません)がある事件を起こすその個々の原因や理由については読んでいて納得できるのですが、20年程の時間の流れを追いかけて描かれている物語のなかでその登場人物達(犯人たち)が目指す終着点にあたる"そもそもの動機"というものが(意図的であれ)明らかでないということが、僕的には消化不良というか、釈然としない印象がぬぐえない原因だと思います
↓以下ネタバレありなのでご了承ください(反転させてます)
要は、結局20年掛けて桐原と雪穂はなにをしたかったのか、ということが今ひとつ解りにくいということです。詳細は省きますが、両者が心に暗い闇の部分を持つにいたった経過はわかるのですが、それぞれの心情を描いていない(意図的と思われますが)ため、その闇の深さをうかがい知ることができず、それ故に桐原と雪穂が"結局何をしたかったのか"がよくわかりません。
ある下りで、桐原が雪穂の作ったパッチワークの小物入れを持っている(=贈られたとしか考えられない)ことを考えると、恋愛関係、それもこの物語では通常の恋愛関係ではなく、逃れられない運命共同体のような関係であると解釈せざるを得ません。また、その後の流れで桐原は雪穂のために様々な犯罪に手を染めていることが解ります。それ=(屈折していようとも)二人の幸せ、が目的なのだとしたらそこまで回り道をしなくても成就できただろうというものが多いですし、たとえば雪穂の目的が昔の貧困からくる"金"への執着だったにしても、金だけでなく"現在の地位を失うことへの恐れ"だったにしても、その度合いがどの程度だったのかを読者が想像するしか手段がなく、では想像してみるとやはり上記のような"運命共同体としてのそれぞれの幸福"が目的なのかな、と感じます。結局それが目的なのだとすれば突飛しすぎている、と感じるようなところがいくつかありました。
その心の闇が"目的=野心、を達成するためのバネになる程度の、ポジティブもの"なのか"目的=野心、を達成するためには他者のどんな犠牲も厭わない、ネガティブなもの"なのか"偏執狂的に己の破綻も厭わない狂気"なのかによって、その物語の見方と、終着点に対しての説得力が大きく変わってくるような気がするので、心情の描写は欠かして欲しくなかったと思います。なぜなら、自分は戦術の「3つの闇の可能性」を想像しながら読んでいましたが、結局最後まで読んでいてしっくり来るものが無かった気がしたからです(自分の想像力の無さでしょうがw)。
どの考えをとっても部分的には納得できるが他のところでは違和感があり、他の考えをとっても同じだからです。だからこそ、創造主に物語の核心にあたる部分を明らかにして欲しかったと思ったわけです。
要約して最後に締めくくりますと、東野圭吾さんにしては珍しくあまり必要でないと思われる描写が多く、反対に、読者としてもう少し欲しい描写が欠けていた、そのために物語全体が間延びした割りに終着点として消化不良、というような印象だったと感じました。
また何度か読んでみたら別の考えも出てくるのでしょうけどねw 最後に、集英社文庫さん、できれば860ページある小説は上下巻でお願いしたいです。かばんパンパンになりますw