『十角館の殺人』
作者:綾辻行人 講談社文庫
お気に入り度:
★★★☆☆

<あらすじ>
半年前、凄惨な四重殺人の起きた九州の孤島に、大学ミステリ研究会の七人が訪れる。島に建つ奇妙な建物「十角館」で彼らを待ち受けていた、恐るべき連続殺人の罠。生き残るのは誰か? 犯人は誰なのか?
鮮烈なトリックとどんでん返しで推理ファンを唸らせた新鋭のデビュー作品。(文庫本 裏表紙より)
<感想など>
作品中やあとがきにもあるように、いわゆる「吹雪の山荘型」の本格ミステリーです。舞台は無人の孤島ですが。
設定された舞台がおあつらえむきというか、お約束というか、明確な作品なので、トリックと犯人探しに集中して読めました。動機に関しては割りと早い段階から読者にわかるような流れになっていますので、読みやすい作品といえますね。
設定として面白いのは、主要な登場人物が西洋のミステリー作家からとったニックネームで呼ばれている点(ニックネームを付けるのは登場人物が通う大学のミス研で伝統的に行われている、という設定です)。またニックネームではなく、本名で出てくる登場人物としては江南(えみなみ=”こなん”と呼ばれている)、守須(もりす)という名前が出てきており、そんな本名の奴おらんやろwとちょっと冷ややかな目で読んでいましたが、なるほど、終盤でこの名前を出してきた訳がわかりました。
個人的な嗜好で言わせていただきましたら、ネタバレになるのであまり詳しくは書けませんが、設定の部分で少し不満がありますかね。
↓以下、ネタバレ有りです(反転させてます)
犯人の計画したアリバイトリックが孤島と本島の往復であるため行き来できる設定にしておかなければならず、嵐などで"完全な隔離された孤島"にできなかったと思うのですが、さすがに昔は電気が来ていたぐらいの距離であり、少なくとも半年前までは人が住んでいた島なわけで、しかもエンジンのついたゴム製のモーターボートで約30分で行き来できる距離で、なおかつ最後には火事の様子が本島から確認できた、という程度の距離なのですから、孤島に残されたミス研メンバーが真剣に狼煙などを上げて助けを呼べばなんとかなった距離だと考えられます。その辺の必死さがないところがリアリティの無さというか、違和感につながって残念でした。こういうところを気にして読んじゃうと、本格ミステリーを純粋には楽しめないと思うので、もちろん本編を読んでいるときには"設定重視"で楽しみましたので、蛇足的な感想です。