『マークスの山』
作者:高村薫 講談社文庫お気に入り度
★★★★★
<あらすじ>
「俺は今日からマークスだ!マークス!いい名前だろう!」---精神に〈暗い山〉を抱える殺人者マークス。南アルプスで播かれた犯罪の種子は16年後発芽し、東京で連続殺人事件として開花した。被害者達につながりはあるのか?姿なき殺人犯を警視庁捜査一課七係の合田雄一郎刑事が追う。殺人犯を特定できない警察をあざ笑うかのように、次々と人を殺し続けるマークス。(文庫本 上巻裏表紙より)
<感想など>
まさに最高傑作といえる一冊だと思います。いままでもいろいろな社会派サスペンスやミステリーを読んできましたが、そういうジャンルで括ってしまうには大きすぎる作品です。
そこにはミステリーや推理小説といった響きから連想できる「謎解き」や「犯人さがし」のような軽いものではなく、一人の人間が殺人者になり、殺人者であり続け、そうあり続けなければならない、自分の居場所を探し模索する、あまりにも深い闇があります。
僕はこういう小説を読むとき最も興味を惹かれるのが、なされたことの「動機」です。なぜ犯罪という選択肢を選んだのか、その極限状態の心理描写や状況などに、ときには妙に納得し、ときには激しく感動すら覚えます。そういう意味でもこの作品は、単なるミステリーやサスペンスなどというジャンルに収めることのできない、スケールの大きさを感じました。
おそらく生涯に出会う、数少ない傑作中の傑作だと思います。